2014.08.12
クレジットカード会員契約とは何なのか
世の中には、「そんなの常識だろ」というような事柄があります。
ところが、その「常識」とされる事柄、よくよく考えると実は誰からも「それが常識である」と教えてもらった覚えがない、なんていうこともままあるわけでして。
多重債務問題なんていうのは、まさにその典型例だと思うのですよ。
「借金をする」
「利息を払う」
「与信枠が拡大する」
「クレジットカードで買い物をする」
「リボ払いにする」
「保証人になる」 等々
それらが何を意味するか、どういう結果に結びつくか、ということを、この国の国民の大半は誰からも教えてもらう機会がありませんでした。
国民のうち比較的多数の人々は、誰から教えられるわけではなく、肌感覚で「借金ヤバい」「カードの使い過ぎヤバい」ということを感じ取っていたわけです。「そんなの常識だろ」とばかりに。
でも、その肌感覚が鈍い人、あるいは何らかの理由で肌感覚が鈍っていた人たちは、あっという間に経済的破滅に追い込まれていきました。
多くの人々は言いました。
「こんな高い利息でこんなに借金したらお前の収入で返せるわけないだろ、なんでそんな常識もわからないのか」と。
それに対し経済的破滅に追い込まれた人たちは答えました。
「まさかこんなに借金が膨らむとは思いもしなかった。毎月何十万円も返済しているのに借金の元金が全く減らないなんて」と。
「それが常識だよ」ということを、社会にデビューする前の若い人たちにちゃんと教える機会を設けるというのは、地味なようでとっても大切なことなのです。
…などと前振りがやたら長くなりましたが。
世の中、多くの大人は多分クレジットカードを持っていることと思いますし、私自身も現在3枚のクレジットカードを持っています。
そして誰からも教わったわけでもないのに、人々はクレジットカードを使ってお買い物をしています。「そんなの常識だろ」とばかりに。
でも、「クレジットカード会員になる」になるということ、それがどういう契約なのかということをいちいち考えながら入会申込書を記載する人は、まずいないと思います。
今回、わたしが成年後見人を務めているAさんのお父さんが亡くなり、相続人はAさんだけでしたので、不動産やら預貯金やらの相続手続をわたしがAさんの法定代理人として行ないました。
Aさんのお父さんはM社のクレジットカードをお持ちでした。亡くなった時点ではカードの利用残高はなく、つまりAさんが相続すべきM社に対する借金はなかったのですが、年会費がかかっているようでしたので、速やかに解約しておかねばなりません。
わたしはちょっと考えました。いや違う、あまり深く考えませんでした。
「クレジットカードそのものはM社から会員向けに無償貸与されているものだから、つまり使用貸借だ。だから借主たる会員の死亡で当然契約終了だよね、よし、カードにハサミを入れてM社に返却しよう」
拝啓 毎度格別のお引立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、下記の契約者(本人死亡により契約終了)につき、御社のカードを返却いたしますので、宜しくご査収下さい。
なお、契約者は、当職が成年後見人を務めるA氏の亡父です。
このような送り状といっしょに、M社の事務センターにクレジットカードを送付したところ、つい先日、M社から下記のようなお手紙がわたしの事務所に届きました。
先日は○○様のクレジットカードのご返却および「カード返送の件」のご連絡をいただきまして、誠に有難うございます。
クレジットカードのご退会のお手続きに関しましては、「退会届」のご提出が必要となります。同封させていただきました「Mカード退会届」に必要事項をご記入のうえ、ご返送いただいきますよう宜しくお願い申し上げます。
ご返送いただきました「退会届」にてお手続きをすすめさせていただきますので、お手数をおかけいたしますが、何卒宜しくお願い申し上げます。
えっ退会届?
ここではじめて、わたしは「クレジットカード会員契約」とは何かということを、少し真面目に考えました。
M社から送られてきた「退会届」書式の書き出しには「私は貴社のカード会員を退会したく、下記のとおり届け出ます」との不動文字。
で、会員氏名と生年月日を記載して押印するようになっているわけです。
いったい、だれの名前を書けというのやら。
だって、クレジットカード会員だったAさんのお父さんは、既にお亡くなりになっているのですから、お父さんの名前を会員氏名として記載すると「私は貴社のカード会員を退会したく」という退会届の書き出しと明らかに矛盾します。
天国から届く退会届なのか?
司法書士は死者名義の登記委任状に神経質になっているから絶対に死者名義の退会届なんて出さないぞ(笑)。
では、Aさんがクレジットカード会員たる地位をお父さんから相続すると考え、会員氏名としてAさんの名前を記載し、Aさんの名前で退会届を出すことになるのでしょうか?
でもこれもおかしい。クレジットカード会員たる地位は、クレジットカード会社が信用情報等の審査の上で入会を認め、また他者へのクレジットカードの譲渡等は一切認めていないのですから、その地位は入会を認められた会員個人に限定された一身専属的なものであることは明らかです。一身専属的な権利義務は相続の対象にはなりませんから、信用力のある父ちゃんだからこそクレジットカード会社が認めたはずのウン百万円の利用可能限度額のクレジットカードを使う権利が、そっくりそのまま無職引きこもりニートの息子に相続されてカード使いたい放題…なんてことにはならないのです。
念のために付け加えると、クレジットカードの使用により既に発生している債務は、当然ながら相続の対象となります。クレジットカード使いたい放題という地位は相続されない、ということです。
結局、「退会届」など提出するまでもなく、会員死亡によりクレジットカード会員契約は当然に終了しますので、わたしからM社あてに「父ちゃん死にましたよ」と通知をした段階で、会員死亡の事実を知ったM社が勝手に会員登録を抹消すれば済む話です。
M社への返信用封筒には「退会届提出に応ずる理由がなく、貴社の責任において会員資格の取消を行なうべきと考えますので、貴社の求めには応じかねます」とのお返事を入れて送り返しました。
もしかしたら、M社からは「面倒くさいこと言ってくる司法書士だな」と思われているかもしれません。
でも、わたしのほうも「三菱UFJニコスって面倒くさいこと言ってくる会社だな」と思ってますので、おあいこでしょう。
ところが、その「常識」とされる事柄、よくよく考えると実は誰からも「それが常識である」と教えてもらった覚えがない、なんていうこともままあるわけでして。
多重債務問題なんていうのは、まさにその典型例だと思うのですよ。
「借金をする」
「利息を払う」
「与信枠が拡大する」
「クレジットカードで買い物をする」
「リボ払いにする」
「保証人になる」 等々
それらが何を意味するか、どういう結果に結びつくか、ということを、この国の国民の大半は誰からも教えてもらう機会がありませんでした。
国民のうち比較的多数の人々は、誰から教えられるわけではなく、肌感覚で「借金ヤバい」「カードの使い過ぎヤバい」ということを感じ取っていたわけです。「そんなの常識だろ」とばかりに。
でも、その肌感覚が鈍い人、あるいは何らかの理由で肌感覚が鈍っていた人たちは、あっという間に経済的破滅に追い込まれていきました。
多くの人々は言いました。
「こんな高い利息でこんなに借金したらお前の収入で返せるわけないだろ、なんでそんな常識もわからないのか」と。
それに対し経済的破滅に追い込まれた人たちは答えました。
「まさかこんなに借金が膨らむとは思いもしなかった。毎月何十万円も返済しているのに借金の元金が全く減らないなんて」と。
「それが常識だよ」ということを、社会にデビューする前の若い人たちにちゃんと教える機会を設けるというのは、地味なようでとっても大切なことなのです。
…などと前振りがやたら長くなりましたが。
世の中、多くの大人は多分クレジットカードを持っていることと思いますし、私自身も現在3枚のクレジットカードを持っています。
そして誰からも教わったわけでもないのに、人々はクレジットカードを使ってお買い物をしています。「そんなの常識だろ」とばかりに。
でも、「クレジットカード会員になる」になるということ、それがどういう契約なのかということをいちいち考えながら入会申込書を記載する人は、まずいないと思います。
今回、わたしが成年後見人を務めているAさんのお父さんが亡くなり、相続人はAさんだけでしたので、不動産やら預貯金やらの相続手続をわたしがAさんの法定代理人として行ないました。
Aさんのお父さんはM社のクレジットカードをお持ちでした。亡くなった時点ではカードの利用残高はなく、つまりAさんが相続すべきM社に対する借金はなかったのですが、年会費がかかっているようでしたので、速やかに解約しておかねばなりません。
わたしはちょっと考えました。いや違う、あまり深く考えませんでした。
「クレジットカードそのものはM社から会員向けに無償貸与されているものだから、つまり使用貸借だ。だから借主たる会員の死亡で当然契約終了だよね、よし、カードにハサミを入れてM社に返却しよう」
拝啓 毎度格別のお引立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、下記の契約者(本人死亡により契約終了)につき、御社のカードを返却いたしますので、宜しくご査収下さい。
なお、契約者は、当職が成年後見人を務めるA氏の亡父です。
このような送り状といっしょに、M社の事務センターにクレジットカードを送付したところ、つい先日、M社から下記のようなお手紙がわたしの事務所に届きました。
先日は○○様のクレジットカードのご返却および「カード返送の件」のご連絡をいただきまして、誠に有難うございます。
クレジットカードのご退会のお手続きに関しましては、「退会届」のご提出が必要となります。同封させていただきました「Mカード退会届」に必要事項をご記入のうえ、ご返送いただいきますよう宜しくお願い申し上げます。
ご返送いただきました「退会届」にてお手続きをすすめさせていただきますので、お手数をおかけいたしますが、何卒宜しくお願い申し上げます。
えっ退会届?
ここではじめて、わたしは「クレジットカード会員契約」とは何かということを、少し真面目に考えました。
M社から送られてきた「退会届」書式の書き出しには「私は貴社のカード会員を退会したく、下記のとおり届け出ます」との不動文字。
で、会員氏名と生年月日を記載して押印するようになっているわけです。
いったい、だれの名前を書けというのやら。
だって、クレジットカード会員だったAさんのお父さんは、既にお亡くなりになっているのですから、お父さんの名前を会員氏名として記載すると「私は貴社のカード会員を退会したく」という退会届の書き出しと明らかに矛盾します。
天国から届く退会届なのか?
司法書士は死者名義の登記委任状に神経質になっているから絶対に死者名義の退会届なんて出さないぞ(笑)。
では、Aさんがクレジットカード会員たる地位をお父さんから相続すると考え、会員氏名としてAさんの名前を記載し、Aさんの名前で退会届を出すことになるのでしょうか?
でもこれもおかしい。クレジットカード会員たる地位は、クレジットカード会社が信用情報等の審査の上で入会を認め、また他者へのクレジットカードの譲渡等は一切認めていないのですから、その地位は入会を認められた会員個人に限定された一身専属的なものであることは明らかです。一身専属的な権利義務は相続の対象にはなりませんから、信用力のある父ちゃんだからこそクレジットカード会社が認めたはずのウン百万円の利用可能限度額のクレジットカードを使う権利が、そっくりそのまま無職引きこもりニートの息子に相続されてカード使いたい放題…なんてことにはならないのです。
念のために付け加えると、クレジットカードの使用により既に発生している債務は、当然ながら相続の対象となります。クレジットカード使いたい放題という地位は相続されない、ということです。
結局、「退会届」など提出するまでもなく、会員死亡によりクレジットカード会員契約は当然に終了しますので、わたしからM社あてに「父ちゃん死にましたよ」と通知をした段階で、会員死亡の事実を知ったM社が勝手に会員登録を抹消すれば済む話です。
M社への返信用封筒には「退会届提出に応ずる理由がなく、貴社の責任において会員資格の取消を行なうべきと考えますので、貴社の求めには応じかねます」とのお返事を入れて送り返しました。
もしかしたら、M社からは「面倒くさいこと言ってくる司法書士だな」と思われているかもしれません。
でも、わたしのほうも「三菱UFJニコスって面倒くさいこと言ってくる会社だな」と思ってますので、おあいこでしょう。
スポンサーサイト